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The Reason I was Born

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エピソード・Gluttony/Teresa


グラトニーは夢を見た。
遠い昔の夢だったように思う。






ーーー
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自分がまだ生きているのか確認するため、
どこでもいいから体の一部を傷つける。
わかりやすく大袈裟な怪我じゃなくてもいい。
視力も殆ど失いかけていたので、
触って痛みがあるのか確認するのだ。

刃物の類は持ち合わせていないので、
殆どが爪で引っ掻くか、爪を剥ぐかの二択になる。
後者は涙が出そうなくらい痛いけれど、
爪がしっかりと再生することで、
より生を実感できる……ような気がする。

実際に私の腕は今どれだけ醜いことになっているのか。
それがここ最近の不安の種だ。
痛みも鈍感になったし、明らかに腐臭を放っている。
もし、爛れて腐り落ちる寸前だったならなんて、
考えるだけで吐き気が止まらない。

しかし、次第に私はそんなことも考えなくなるだろう。
何が苦しくて何が辛いかなんていうのは、
案外慣れてしまうものだ。

どうして私はこのような仕打ちを受けるのだろう。
昔、小さい頃はよく抱いた疑問だった。
シル様のお怒りに触れないよう一日をどう過ごすか。
そんな処世術を言葉よりも先に覚えていた。

シル様……そうだ。
ここでシル様とセイドン様への許しを請い続けて、
いったいどれほどの月日が流れただろう。
一日が過ぎたのか、一月が、
一年が過ぎたのか、もうわからなくなってしまった。
まるで時間が止まってしまったかのよう。

こうしていることで、
また、家族として迎え入れていただける日が来るのだろうか。
いいや、それはきっと訪れない。
わかっている。頭ではわかっている。


ギィと、扉の開く音がした。
影の先にはシル様とアリア様が立つ。

「ーーーー」

そう、わかっていた
もう交わされる言葉などない。
私から掛ける言葉も見当たらない。

もしかして、とも思わない。
かれこれ数十年ぶりである母の来訪に、
私は一切の期待も持ち合わせていなかった。


「お久しぶりですね。テレサ」

お声をかけてくださったのは、
ディメンシャ領を治める女公爵様。
別け隔てなく優しい御方で、
私も幼い頃はよくお話したり、
はぎれ布で絵本に挟む栞の作り方を教わったりした。


「……お久しうございます。アリア様」

「栞……」

「え……?」

「新しい編み方を教えてあげるって、約束でしたよね」


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そんな約束をした覚えはなかった。
しかし、そうであったならと思ってしまう。

あぁ、私はまた見えない物を見ているのでしょうか。
現実を見ようとせず、自分にとって都合のいい幻を追いかけて。

それでもいい。
もういいんだ。だから、

「はい。勿論……覚えています。覚えていますとも。ちょうど古い栞を……そう、無くしてしまったのです」

少ない思い出の断片をちぐはぐに繋いで、
本当はそこに無かった記憶の続きを作っていく。

何が正しくて、何が間違っているかなんてない。
私は私に嘘をつくことを、もう迷わない。
止まった時間が動き出した。


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